1.発達とソーシャルスキルトレーニング


児童ディケア「くまさん」の代表である後藤先生のご理解をいただき、SSTや発達支援について書かせていただくことになりました。後藤先生はじめ、「くまさん」のスタッフの皆様に心より感謝申し上げます。


1.SST(ソーシャルスキルトレーニング)とは?

 

 このごろ本屋さんで発達に関係するコーナーにいくと、「SST」とか「ソーシャルスキルトレーニング」という単語が増えています。それではSST(ソーシャルスキルトレーニング)とはなんでしょうか。


 SSTとは、もともと統合失調症のある患者さんが社会生活に復帰するリハビリテーションの方法でした。ざっくり説明すると、SSTは次のようなやり方で進みます。


 4~5名のグループを作り、リラックスするゲームをした後、患者さんが悩んでいる場面を話します(対人関係が多いです)。それを聞いた医師や看護師、あるいは同じ悩みを持つ患者さんたちは、「こうすればもっと良くなるのでは?」「私はこうしたらうまくいったよ」など、互いにたくさんアイディアを出します。悩んでいた患者さんは、出てきたアイディアの中から、「これなら自分もできそうだ」というアイディアを選び、それができるように練習します。最後に、翌週、実際にやってみて、うまくいったかどうかを検証します。


 SSTで練習した解決策を現場で実際にやって、うまくいったらそれでよいし、うまくいかなければ、どこら辺が現実にはうまくいかなかったかを「悩んでいること」に戻して、同じプロセスで話し合い、再び練習をして、問題を解決するまで検証を続けます。


ゲーム(リラックス)


悩んでいること

アイディアを出し合う

できそうなものからやってみる

練習

うまくいったかどうかの検証

 

表1.SSTの進め方


単純なプロセスですが、SSTは科学的な効果が認められています(病院でSSTを行うと保健点数がつくのはそのためです)。「実際に現場で試して、うまくいったかどうか、検証する」のがSSTのポイントで、これにより効果が高まりました。実際にやってみて、問題を解決したという事実が、次の課題にチャレンジするモチベーションにつながります。


SSTには行動療法などの専門的な知識を持ったファシリテータが必要です。リラックスした雰囲気作りも大切で、緊張するとアイディアも出ません。ファシリテータは雰囲気を作りながら、話し合いを調整します。


2.教育と発達への応用


 考えてみますと、対人関係で悩んでいるのは統合失調症の患者さんだけではありません。コミュニケーションが苦手な子どもたちの存在はいろいろ指摘されています。子どもとうまくコミュニケーションが取れない保護者の悩みは、子育て支援政策の課題です。コミュニケーションで悩んでいる人はとても多いのです。


こうした問題にSSTを応用して「クラスで友だちができない」「なぜか学校でトラブルを起こしてしまう」などの悩みを解決したり、年度初めからSSTを学校に取り入れて、対人関係のトラブルを予防する試みが教育現場でおこなわれるようになりました、私も練馬区立総合教育センターの協力のもと、教育現場でSSTを実践しています。


もうひとつ、特に発達領域では身辺自立や言語発達も含めた社会性を育む方法が求められてきました。衣服の着脱や歯の磨き方から就職技能支援まで、「社会性」は幅広い内容を伴いますが、SSTはそのすべてに対応している技法です。具体的な支援方法は7月に日本ポーテージ協会の常任理事の吉川先生にお話しいただく予定です。


すべての技法に限界があるように、SSTにも限界はあります。このSST通信ではSSTの限界についてもお話しする予定です。



3.今後のSST講座のお知らせ -他の方法と協力して


SSTは協働的な手法なので、他に良い方法があれば積極的に取り入れます。私は児童ディケア「くまさん」のご理解のもと、以下の技法について保護者のみなさんと一緒に勉強できる機会を設けたいと思っています。SST講座の目的は4つです。


①SSTの内容を具体的にしってもらいたい

②生活にかかわる保護者の具体的な悩みにこたえる機会を作りたい

③遊びの質を深めたい

④多動・衝動性など、具体的な問題解決の技法を紹介したい


そのため、3つのプログラムを考えました。

 


(1)社会性の発達を促すポーテージプログラム(7月18日講演会)

       NPO法人 日本ポーテージ協会常任理事 吉川真知子先生


 ポーテージプログラムとは知的な発達のバラツキのある子どもに社会性の発達を促すSSTの技法です。SSTの実際をお伝えする意味で、最初にご紹介します。


「社会性」とは歯磨きの学び方から就職の訓練までとても幅の広い概念ですが、ここでは「小学生の身辺自立、対人関係、言語、認知(計算など)、運動」での社会性を考えたいと思います。他の心理療法と異なり、SSTでは「着替えがうまくいかない。どう教えればいい?」「計算問題の教え方は?」「上手に鉛筆が持てない」など、課題が具体的であればあるほどよいとされています。前回のSST講座で保護者のみなさんから「困っていること」を募りましたが、吉川先生からお返事をいただく予定です。「SSTはトレーニングだから怖い」というイメージがある方がいましたら、吉川先生のお人柄に触れてください。SSTが厳しい押しつけの技法ではないことがご理解いただけましょう。


当日も吉川先生にお答えいただく質問時間を設けます。発達領域で多くの質問を受けてきた吉川先生だからこそお答えできることがあろうかと思います。


 

(2)感覚統合遊びの実際‐遊びの中で育てる発達・自己有能感‐

   うめだ・あけぼの学園 作業療法士・感覚統合療法インストラクター 

                              酒井康年先生


感覚統合遊びについてはご存じの方も多いでしょう。感覚刺激を調整しながら遊びを通じて発達を促す技法です。感覚統合遊びは遊び方のレパートリーが多く、特別支援学校や児童デイでも実践されていますが、作業療法士の技量の差が出やすい手法です。


そこで発達療育の専門機関であるうめだ・あけぼの学園から感覚統合訓練の第一人者である酒井康年先生をお招きし、小学生を対象に、家族で楽しく続けられ、発達を促す遊びをご紹介いただきます(どの遊びがヒットするかはお子さんの性格にもよりますので、質疑の時間を取ります)。 酒井先生は特別支援学級の教員免許もお持ちですので、そういう観点からもご質問ください。



(3)多動をおさえる臨床動作法(腕上げ動作コントロールを中心に)

                        臨床動作学会より講師をお招きする予定です


多動や衝動性の問題は自立に向けての代表的な課題です。そこで多動に有効な臨床動作法をみなさんと勉強したいと思います。


臨床動作法とは肢体不自由のあるお子さんの心理的援助技法でしたが、今野義孝先生により自閉・多動傾向への腕上げ動作コントロールが開発されてから、多動傾向を鎮める技法として注目されています。特別支援学校でも一部取り入れているところがあります。


臨床動作法は手技を含むので、保護者のみなさんのご協力が不可欠ですが、多動や衝動性について確かに効果があります。この講座では長年自閉症と多動の問題にかかわっている臨床動作学会から講師をお招きし、腕上げ動作コントロールをご紹介します。


 現在考えている講座はこの3つですが、その他、大阪で就労支援にSSTを適用している支援センターや児童デイケアがあるので、その方法や活動を学びたいと思っています。また「くまさん」の保護者からのリクエストでは「保護者自身のストレス対策」や「本でいろいろ読むけど、よくわからない応用行動分析のやり方」などがありました。これらにも応じていく所存です。「こういうことが聞きたい」「こういう講座を開いてほしい」というリクエストがありましたら、どうか、みなさんの声を聞かせてください。